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骨髄増殖性腫瘍 (MPN: Myeloproliferative Neoplasms) とは

解説  山梨大学医学部 血液・腫瘍内科 桐戸敬太

骨髄増殖性腫瘍とは、造血幹細胞に後天的に遺伝子変異が生じることにより、血液細胞が過剰に造られてしまう病気の総称です。遺伝子変異の種類によって、白血球、赤血球あるいは血小板のうち、どのタイプが主体となって増えるかが異なってきます。現在の分類(WHO2017 年分類) では、このグループの中に7つの疾患が入っています。このうち、慢性骨髄性白血病は、フィラデルフィア染色体異常とそれに伴い形成されるBCR-ABL 融合遺伝子が原因であることがわかっています。また、最近になり慢性好中球性白血病では、白血球の増加に関わる造血因子G-CSF のレセプターに遺伝子異常が生じていることが明らかになっています。一方、真性赤血球増加症、本態性血小板血症および原発性骨髄線維症の3つの疾患については、お互いに移行することがあったり、共通の遺伝子変異を認めることが多いことから、一つにまとめてフィラデルフィア陰性骨髄増殖性腫瘍と呼ばれることもあります。この3つの疾患でみられる遺伝子の異常としては、JAK2V617F 変異があります。真性赤血球増加症では、約90% 以上の患者さんがこの変異をもっています。本態性血小板血症と原発性骨髄線維症の患者さんでは、約半数がこの変異が原因となります。残りの患者さんではカルレティキュリン(CALR) やMPL といった遺伝子に異常を認めることが多いことがわかってきました。




骨髄増殖性腫瘍の各病型

真性赤血球増加症(PV)

真性赤血球増加症(真性多血症)は、骨髄増殖性腫瘍の中でも、特に赤血球が増えている疾患です。90%以上の患者さんで、JAK2 遺伝子変異を認めます。逆に、赤血球が増えていても、JAK2 遺伝子変異が見つからない場合には、他の原因で赤血球が増えている可能性を考える必要があります。真性赤血球増加症では、赤血球が増えることにより血液の粘性が高くなるため、頭痛やめまいなどの症状がみられることがあります。また、顔や手のひらの赤みが強い、結膜や口の中の粘膜が充血するなどのこともあります。かゆみ(特に入浴やシャワーの後に強くなる)、体重の低下、倦怠感などの全身的な症状が見られることもあります。診断は、ヘモグロビンの値が高いこと、JAK2 変異があること、そして骨髄生検の結果の3つに基づいて行われます。真性赤血球増加症では、赤血球造血に関わる造血因子エリスロポエチンの値は低下していることが多く、これも診断の参考となります。真性赤血球増加症で、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈系の血栓症と、足の静脈血栓や肺塞栓などの静脈系の血栓の双方の危険性が高くなるため、これを予防することが治療の目標となります。喫煙をしている場合には、直ちに禁煙することが必要です。また、高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの持病がある場合には、これらの病気をきちんと管理することも重要です。真性赤血球増加症に対する治療としては、瀉血や薬物療法により赤血球数(ヘマトクリット値)を適切なレベルにさげておくことと、抗血小板剤(アスピリン)の2つが治療の柱となります。ヘマトクリットを下げる方法は、血液を体外に取りだす瀉血療法と薬物療法があります。60 歳未満でこれまでに血栓症をおこしたことがない場合には、瀉血療法が推奨されます。一方、60 歳以上の方やかつて血栓症となったことがある方では、薬物療法を用います。薬物療法としては、ハイドレア、マブリンあるいはジャカビを選択することができます。一般的には、ハイドレアを用いることが多いです。ハイドレアの効果が不十分でない場合や、かゆみなどの全身症状が強い場合には、ジャカビを用います。マブリンは比較的高齢の方に用いられています。直ちに命に関わる病気ではありませんが、10~20 年の経過ののちに、数%~10%程度の割合で骨髄線維症や急性白血病へ移行することがあります。

 

本態性血小板血症(ET)

骨髄増殖性腫瘍のうち、血小板の増加を主体とする疾患です。無症状のことも多く、健康診断などで指摘されて診断に至る方も少なくありません。一方、脳梗塞などの血栓症の発症後に、気付かれることもあります。特徴的な症状の一つとして、肢端紅痛症があります。これは、手先や足のゆびなどにピリピリとした痛み・熱感がみられる状態をさし、微小な血栓による循環障害が要因と考えられています。本態性血小板血症の診断は、血小板数が増えていること(45万/μL 以上)、遺伝子変異の存在、骨髄生検の病理像の3つに基づいて行われます。なお、他の骨髄増殖性腫瘍でも血小板の増加を伴うことが多いため、それらの病気との違いを区別することが大切です。遺伝子変異としては、JAK2 変異が約50~60%, CALR 変異が20~30%,MPL 変異が10%程度認められます。骨髄生検では、血小板をつくる細胞である巨核球が増えていることが特徴です。 本態性血小板血症は、直ちに命に関わる疾患ではなく、海外のデータではありますが、一般の人と比べ寿命には大きな差がないと考えられています。ただし、血栓症や出血の合併率は高いために、その予防を行うことが治療の目的となります。治療を行うにあたっては、まず血栓や出血を合併する危険がどのくらいであるかを予測することが重要です。従来、年齢が60歳未満で、いままでに血栓や出血の合併がなければ低リスク群として、それ以外を高リスク群とする分け方が広く用いられてきました。しかしながら、最近ではJAK2 変異を有するタイプであるのか、糖尿病や高血圧症などの合併があるのか、などに基づいた新たな分類が発表されています。低リスクの場合には、薬物療法を行わずに経過観察とする場合があります。薬物療法としては、抗血小板剤(アスピリン)と細胞減少治療剤(ハイドレア、マブリン、アグリリン)があります。アスピリンは、血栓・出血リスクが低リスクおよび高リスクの場合の双方で用いられます。ただし、血小板数が極めて高い場合(100~150万/ μ L 以上)には、出血の合併リスクが高くなるため、注意が必要です。細胞減少治療としては、ハイドレアもしくはアグリリンが第一選択となります。マブリンは高齢者で用いられることがあります。骨髄線維症や白血病への移行率は、真性赤血球増加症と比べると低く、10~20 年で数%です。

原発性骨髄線維症(PMF)

骨髄中に線維(細網線維もしくはコラーゲン線維)が増えている状態を骨髄線維症と呼びます。骨髄線維症そのものは、骨髄増殖性腫瘍以外にも悪性リンパ腫などの他の血液疾患や、自己免疫疾患、感染症などに合併することがあります。骨髄線維症のうち、上記のような合併疾患が否定され、かつ骨髄増殖性腫瘍の一員であると判断される場合を原発性骨髄線維症と診断しています。また、真性赤血球増加症や本態性血小板血症がもともとあり、その経過中に骨髄中に線維が増えてきた場合を続発性骨髄線維症と呼ぶこともあります。最近では、原発性骨髄線維症と続発性骨髄線維症では、その後の病気の進み方や命への影響の程度が異なるのではないかと考えらえています。 原発性骨髄線維症・続発性骨髄線維症では、骨髄での線維化に加えて、骨髄以外の臓器で造血がおこること(髄外造血)を認めることがあります。その代表が脾臓や肝臓であり、進行すると脾臓が腫れることがあります。また、倦怠感やかゆみ、寝汗、微熱、体重減少などの全身的な症状を伴うことも少なくありません。さらに、貧血の合併も高頻度にみられます。原発性骨髄線維症の診断には、遺伝子変異解析(JAK2 遺伝子、CALR 遺伝子およびMPL 遺伝子) と骨髄生検による骨髄線維化の確認が必須です。 原発性骨髄線維症では、病気の進行度などにより、命に関わる程度が大きく異なります。これを評するために、国際予後スコア(IPSS) が提唱されています。さらに、これを基にしたDIPSS やDIPSS-plus といった分け方も発表されています。IPSS では、命への影響の程度に従い、軽い方から 低リスク、中間リスク1, 中間リスク2 そして高リスクの4段階に分けて評価をしています。そして、中間リスク2 および高リスクと判断される場合には、可能であれば造血幹細胞移植治療を受けることが推奨されています。それ以外の治療方法としては、貧血を改善するためのタンパク同化ホルモン剤、脾腫および全身症状の緩和を目的としたジャカビなどの選択肢があります。


分類不能タイプ

2017 年のWHO 分類では骨髄増殖性腫瘍の中に、分類不能タイプが設けられています。臨床的な特徴から骨髄増殖性腫瘍が強く疑われるものの、血液検査データ、骨髄検査所見などから、上記のどの疾患にも当てはめることができない場合に、この群に分類します。それぞれの病気の初期段階や、病気の移行の段階など、様々な場合が含まれていると考えられています。





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