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骨髄増殖性腫瘍(MPN)共通 Q&A

福島県立医科大学 輸血・移植免疫部 池田 和彦

Q1.骨髄増殖性腫瘍(MPN)はどのような病気ですか?

血液のおおもとになる造血幹細胞に遺伝子の異常が起こって、血液の細胞(血球)が増加する病気です。細胞はゆっくり(慢性)ですが、勝手に(腫瘍性)増えていきます。増加する細胞の種類によって分類がわかれています(Q2 をご覧下さい)。 1951 年、米国のダムシェック先生が、血球が増えたり、脾臓が腫れたりするなど、よく似た病状の病気を集めて、骨髄増殖性疾患と名付けました。2005 年、JAK2 遺伝子の変異(JAK2V617F 変異、Q3 をご覧下さい)が発見され、血液が増える原因が腫瘍性であることがわかりました。このため、造血器腫瘍の分類 (WHO 分類) では、2008 年以降、骨髄増殖性「疾患」から、骨髄増殖性「腫瘍」(MPN) へと、呼び方が変更されています。

Q2. 真性赤血球増加症(PV)、本態性血小板血症(ET)、原発性骨髄線維症(PMF)はどこに分類されますか?

最新のWHO 分類 (2017 年版) では、7 疾患がMPN に分類されており、その中にPV、ET、PMF も含まれています。PV は赤血球が、ET では血小板が最も増えます。PMF は骨髄で線維(コラーゲン)が増えてしまう病気で、さらに前線維化期PMF と線維化期PMF に分けられています。PV、ET、PMF のいずれも、別な種類の血球(白血球など)も増える場合が多いです。それら3 疾患以外では、慢性骨髄性白血病、慢性好中球性白血病、慢性好酸球性白血病、分類不能型MPNがMPN に分類されています。

Q3.  JAK2V617Fのアレルバーデン値とは何ですか?

JAK2 遺伝子の変異は、JAK2 V617F (JAK2 の始まりから数えて617 番目のバリンという物質が、フェニルアラニンに置き換わる異常) が大部分を占めます。JAK2V617Fのアレルバーデン値とは、JAK2 遺伝子全体の中で、JAK2V617F 遺伝子がどのくらいあるのか、という比率を表したもので、JAK2V617F 遺伝子量÷ ( 野生型 JAK2 遺伝子量+ JAK2 V617F 遺伝子量) × 100% で求めることができます。例えば80% のアレルバーデンの場合は、残りの20%は正常のJAK2 である、ということになります。アレルバーデンが75% を超えると 25% 以下の患者さんに比べて血栓症の合併が多くなります。また 50% を超えると 50%以下の患者さんに比べて真性多血症や本態性血小板血症から骨髄線維症に移行するリスクが高くなると言われています。測定は今後保険収載される可能性がありますが、現時点では一部の施設(順天堂大学など)で測定可能です。

Q4. JAK2遺伝子変異率が80%以上ですと、いつか100%になって下がらなくなりますか?

そのような場合もありますが、あまり変化せず長期間過ごされる方も多いようです。

Q5. 治療薬でJAK2V617Fのアレルバーデン値は変化しますか?

ジャカビを投与された患者さんの一部では、JAK2 V617Fのアレルバーデンが減少することが報告されています。ハイドロキシウレアやアナグレリドはアレルバーデン値にはあまり影響を及ぼさないようです。

Q6. 分子遺伝学的寛解するような薬が出る可能性はありますか?

インターフェロンによってJAK2 V617F のアレルバーデンが減少することが報告されています。ただし、分子遺伝学的寛解まで減少することは稀と思われます。

Q7. JAK2V617Fアレルバーデンの値は、血栓のできやすさに影響しますか?

JAK2 V617F 変異のMPN 患者さんでは、CALR 変異など、他の変異を持つMPN 患者さんよりも血栓ができやすいです。JAK2 V617F のアレルバーデンが50%を越えると、血栓症がさらに多くなることが報告されています。

Q8. アレルバーデン検査は受けたほうがいいですか?

 JAK2 V617F の有無は是非とも確認する必要があります。アレルバーデンについては、治療方針の参考になるので受けることが望ましいですが、2019 年3 月現在、可能な施設が限られているので、主治医の先生と相談してください。

Q9. 子供に遺伝しますか?

 MPN を引き起こすJAK2 やCALR の変異は後天的なもののため、直接子供に遺伝する心配はありません。  なお、海外から、MPN 患者さんの血縁者でMPN の発症頻度がやや増加することが報告されており、病気の「なりやすさ」が遺伝する可能性はあります。また、先天性の遺伝子異常による家族性のMPN が報告されています。しかし、MPN の家族内発症はかなり稀です。

Q10. 脾臓か腫れるということは、骨髄で造血していなくて、脾臓で造血していて、骨髄が線維化しつつあるのですか?

MPN で脾臓が腫れる主な原因は髄外造血(血液が骨髄以外の場所で造られること)です。骨髄が線維化していなくても、細胞が盛んに増殖しているような場合には、髄外でも造血して脾臓が腫れることがあります。逆に、骨髄に線維化が生じていても、脾臓が腫れない場合もよくあります。

Q11. 脾腫に対する治療法を教えてください。

 薬物療法としてはジャカビが用いられます。さらに、脾臓に対する放射線照射、脾臓摘出が行われます。抗腫瘍薬のハイドレアも一部の症例に対しては脾臓を縮小させます。

Q12. JAK2阻害薬の有効性を教えてください。

現時点では、JAK2 阻害剤としては、ルキソリチニブ(商品名:ジャカビ)が骨髄線維症(PMF、PV やET から起こる二次性骨髄線維症)とPV に対して承認されています。骨髄線維症では、脾腫の軽減、全身症状( 盗汗、体重減少、発熱、掻痒感など) の改善を認めます。また、長期間服用できた患者さんの一部では、骨髄線維化の改善や生存期間延長の可能性も示唆されています。  PV では、ハイドレア不耐容( 副作用のために服用できない)または耐性( 効果が期待できない) の患者さんに服用していただけます。脾腫や全身症状の改善に加え、赤血球の濃さ(ヘマトクリット)や血球数を減少させる効果もあります。

Q13. ETやPVで病気の進行を遅らせ治癒へと導く治療法はありますか?

MPN を治す唯一の治療法は、造血幹細胞移植です。しかし、とても強力な治療で、合併症も少なくありません。このため、比較的長い生存期間が期待できるPV やET の患者さんで行われることは滅多にありません。MPN で移植の適応になるのは、急性白血病の兆しや骨髄線維症などがある場合の一部に限られます。  ジャカビについては、PV の症状や血球数の減少効果は確実にありますが、長期的に病気の進行を遅らせたり、血栓症などの合併症を減らしたり、生存期間などに対して効果を示したりするのかどうか、ということについては、まだわかっていません。ET に対しては適応がありません。インターフェロンは病気の進行を遅らせる可能性が海外から報告されていますが、確立されたものではありません。

Q14. MPN患者は健康な人よりもがんになりやすいですか?

 まず、血液系のがんである急性白血病や骨髄異形成症候群になりやすいことは間違いありません。また、リンパ系の腫瘍も起こりやすいという報告があります。それ以外のがんについては、欧米からの研究で、MPN 患者は血液がん以外のがんによる死亡率も若干高いという報告がありますが、反論もあります。日本人では、はっきりしたことはわかっていません。いずれにしても、MPN の患者さんも、がん検診(消化器系や婦人科系など)を受けるに超したことはないと思われます。

Q15. MPNと慢性腎不全を発症し、透析治療が必要となった場合、MPNはどのように治療しますか?

 透析治療ではハイドレア、ジャカビ、アグリリンのいずれの薬剤も投与は可能ですが、慎重に投与することが推奨されています。ハイドレア服用中であれば、投与量を20% 減量するか、または 4~6 mg/kg を 1 日 1 回までの量に減らします。透析日には、透析が終わってから服用します。ジャカビやアグリリンの場合にも最少量から開始し、副作用に十分に注意しながら増量し、透析日は、透析後に服用します。 

Q16. 歯科治療をする場合、特に手術や抜歯をする時には主治医や歯科医に相談する必要がありますか?

 MPN の患者さんでは出血が起こることがあります。特に血小板が極端に多い患者さんや、血小板の働きを抑える薬(アスピリンなど)を服用している場合には、手術や抜糸をした後に出血が止まらなくなる危険性があります。 手術や抜歯をする場合には、主治医に相談すると同時に、外科医や歯科医にかかっている疾患名と抗血小板薬を服用していることを必ず告げてください。一週間程度の休薬期間が必要になります。

Q17. インフルエンザワクチン、肺炎球菌予防ワクチン、帯状疱疹予防ワクチンは、受けても良いですか?

 MPN の患者さんでは、からだの中で抗体をつくる働き(免疫)は保たれており、ワクチンを接種した後にインフルエンザや肺炎球菌、帯状疱疹に対する抗体がしっかりと作られる可能性が高いと言えます。このため、ワクチン接種はむしろ積極的に行って良いと考えられます。 ただし、ジャカビを内服している患者さんでは、免疫も抑えられているので、抗体がうまくできない可能性があります。特に帯状疱疹ワクチンなど、生ワクチンの接種については控えた方が良いでしょう。

Q18. 普段気がつかない消化管出血などを早期発見するためには、どうしたらよいですか?検診を受けるべきですか?

 Q14. でも述べましたが、がん検診を受けておくと良いでしょう。特に50 歳を超えたら胃や大腸の内視鏡検査もお勧め致します。

Q19. 年一回は、一般的な検診を受けた方が良いですか?

 市町村や会社、学校などの定期検診は必ず受け、異常を指摘されたら、必ず主治医に相談してください。

Q20. 検査を受ける場合、なるべく放射線を浴びる検査は最低限避けた方が良いですか?

 検査には利益と不利益があります。不要な放射線被曝は避けるべきですが、診断や治療に必要である、つまり検査の利益が不利益に勝っている場合は、放射線を浴びる検査も受けるべきでしょう。

Q21. 短い診療時間の中で、患者はどのようにして主治医に意向を伝えればよいですか?

 聞きたい内容について、なるべく簡潔に要点を絞って聞いてください。 質問事項を事前に紙に書いておくなど、準備をするのも良いでしょう。

Q22. MPNの患者はがんセンターにかかることはできないのでしょうか?各センターの方針や状況により異なるものでしょうか?

 多くのがんセンターには血液専門医が勤務していますので、 診療は可能な場合が多いと言えます。しかし、血液疾患の中でも専門性がありますし、所在地などにより各センターの地域に置ける役割も異なりますので、希望するセンターに直接お問い合わせいただくか、主治医と相談して紹介してもらうなどを考慮してください。

Q23. 他にどこで情報が得られますか?

海外のMPN Research Foundation (http://www.mpnresearchfoundation.org/)や、
MPN Education Foundation (http://mpninfo.org/)、
MPN Advocacy & Education International(http://mpnadvocacy.com/) 、
Patient Power(http://www.patientpower.info/myeloproliferative-neoplasms)
MPN Advocates Network(http://www.mpn-advocates.net/)
から情報が得られますが、このホームページ(http://mpn-japan.org) で多くの情報を発信したいと考えております。分からない点や疑問点がありましたら、このホームページをご利用下さい。

 

 

 

 

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