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骨髄増殖性腫瘍 (MPN: Myeloproliferative Neoplasms)とは

解説  順天堂医院血液内科  医学博士  小松 則夫

造血(血液)幹細胞(血液の種)に異常が起こって、赤血球や白血球、血小板などの血液細胞が正常なコントロールを逸脱して異常に増えてしまう病気です。1951年に米国のダムシェック先生が初めて提唱した疾患概念で、血液細胞の増加や脾腫、病気がお互いに移行したりするなど、よく似た病態を示す病気に注目し、 “骨髄増殖性疾患”という名前をつけました。その当時は慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症(真性多血症)、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症の4疾患でしたが、2008年に発表されたWHO分類第4版ではその他に4疾患が追加されて、8疾患になりました。これらの多くの疾患で遺伝子異常が発見されたので、骨髄増殖性“疾患”から骨髄増殖性“腫瘍”に名称が変更されました。この中で、慢性骨髄性白血病は、フィラデルフィア染色体という異常な染色体が血液幹細胞に出現し、BCR/ABLという正常には存在しない遺伝子が異常な蛋白質を作ることで白血球が増加することが知られています。最近ではこの異常蛋白に対する治療薬が開発され、劇的な治療効果を挙げています。また真性赤血球増加症や本態性血小板血症、原発性骨髄線維症についても原因が次第に解明されてきており、新規治療薬が開発され、貧血改善効果や脾腫縮小効果が認められています。


真性赤血球増加症(PV)

真性多血症とも言います。骨髄増殖性腫瘍のひとつで赤血球が異常に増加し血液が濃くなる病気です。顔が赤くなる(赤ら顔)ため、時に飲酒運転と間違えられてしまうことがあります。しばしば白血球や血小板も増加します。血栓症を合併しやすいのが特徴で、脳梗塞や心筋梗塞を発症して、初めて診断されることもあります。症状は頭が痛い、頭が重い、眩暈、赤ら顔、眼瞼結膜や口腔粘膜が充血する、などの症状がみられます。高血圧症もしばしばみられます。診断は2008年に発表されたWHO分類第4版に準じて行われます。JAK2という遺伝子の異常がほぼ全例で見つかりますので、この検査は診断に欠かせません。治療としては瀉血(献血と同じ方法で血を抜くこと)や化学療法、抗血栓療法が行われます。瀉血はヘマトクリット値(血液の濃さを示す指標のひとつ)を45〜50%を下回るように行います。週に何回も行わなければならない場合もあれば、月に1回程度で済む場合もあります。抗腫瘍薬による化学療法が行われるのは原則として60歳以上、または血栓症の既往歴がある場合に限られます。このような患者さんは血栓症を併発しやすいからです。抗腫瘍薬としてはヒドロキシカルバミド(商品名:ハイドレア)の経口投与が最もよく行われます。ハイドレアは他の抗腫瘍薬に比べて白血病原性(白血病を引き起こす危険性)が少ないとされています。2015 年9 月にハイ ドレア不耐容(副作用のために服用できない)または耐性(効 果が期待できない)の場合には分子標的薬であるJAK2 阻害 薬ルキソリチニブ(商品名;ジャカビ)が使用できるようにな りました。血栓症の予防のためにアスピリンの少量投与を併用することも行われます。予後は良好ですが、時に骨髄線維症への移行(消耗期とも言います)や急性白血病に移行することがあります。

 

本態性血小板血症(ET)

骨髄増殖性腫瘍のひとつで血小板が異常に増加する病気です。同時に白血球も増加することがあります。血小板増加を伴う慢性骨髄性白血病や真性赤血球増加症、原発性骨髄線維症を除外して初めて診断されます。血栓症や出血を合併しやすく、脳梗塞や脳出血、心筋梗塞を発症して、初めて診断されることもあります。診断時1/4〜1/3が無症状ですが、頭痛、失神、非定型胸痛、視力障害、網状皮斑(赤紫色の樹枝状もしくは網目状の模様にみえる)、肢端紅痛症(本態性血小板血症のQ23参照)などがみられます。その他、血栓症を併発すれば、それに関連した症状がみられます(脳梗塞であれば半身麻痺など)。患者さんの約半数にJAK2V617F変異、1-3%にMPL遺伝子変異を認めます。診断はこれらの遺伝子異常を含めたWHO分類第4版に準じて行われます。血小板数の基準が以前は60万/μLでしたが、WHO分類第4版では45万/μL以上に引き下げられています。ごく最近の報告では2-3割にCALR遺伝子変異があると言われています。したがってほとんどの患者さんがこれらのいずれかの遺伝子異常を持っているということになります。治療は血栓症と出血を予防することが目的で行われます。瀉血を除いては基本的に真性赤血球増加症と同じ治療が行われます。抗腫瘍薬による化学療法が行われるのは原則として60歳以上、または血栓症や出血の既往歴がある場合で、これらの条件を満たさなければ原則として経過を観察します。腫瘍薬としてはヒドロキシカルバミド(商品名:ハイドレア)が広く使用されてきましたが、欧米では腫瘍薬ではないアナグレリド(血小板凝集抑制薬として開発されましたが、副作用に血小板減少がみられたため、それが主作用となりました)という薬が10年以上前から使用可能でしたが、日本でも2014年に承認されました。妊娠を希望する女性、妊娠中の方にはインターフェロンの皮下注射によって血小板を減らすことが可能です。ただしインターフェロンは健康保険の適用はありませんので、自費扱いになります。血栓症の予防のためにアスピリンの少量投与を併用することもありますが、血小板数が150万/μLを超えるとかえって出血しやすくなりますので、投与前にハイドレアなどで血小板数を減らす必要があります。真性赤血球増加症と同様に予後は良好ですが、時に骨髄線維症への移行や急性白血病に移行することがあります。本態性血小板血症から真性赤血球増加症に、真性赤血球増加症から本態性血小板血症に移行することがあります。


図(シャイアー・ジャパン株式会社より提供)

原発性骨髄線維症(PMF)

骨髄増殖性腫瘍のひとつで骨髄の中に線維化が生じる病気です。その結果、骨髄以外の場所で血液を造るようになります。それを髄外造血と言いますが、その代表的な場所が脾臓です。そのため、病気が進行すると脾臓が腫れるようになります。異常な巨核球(血小板を造る細胞)から放出されたサイトカインに線維芽細胞が反応して増殖し、細網線維や膠原線維を産生し、骨髄の線維化が進みます。骨髄線維症には他に原因が見つからない原発性、真性赤血球増加症や本態性血小板血症から移行した続発性、急性巨核芽球性白血病や有毛細胞白血病、副甲状腺機能亢進症などの基礎疾患に伴って生じる二次性があります。脾腫による腹部膨満感、発熱、盗汗(寝汗)、体重減少、掻痒感(かゆみ)、骨痛、易疲労感(疲れやすい)などの症状がみられます。本態性血小板血症と同様に原発性骨髄線維症においてもJAK2MPLCALRなどの遺伝子異常が報告されています。診断が同じくWHO分類第4版に準じて行われますが、骨髄生検によって異常な形を示す巨核球や骨髄の線維化を確認する必要があります。治療法には根治療法と対症療法があります。根治療法とは病気を完全に治すことを目的に行う治療のことで、造血幹細胞移植がそれに相当します。年齢が比較的若い(65歳以下)で、予後が悪いと予想される患者さんは積極的に造血幹細胞移植を検討する必要があります。根治療法ではありませんが、貧血に対する蛋白同化ホルモンやエリスロポエチン、サリドマイドやその誘導体、JAK2阻害薬の投与が行われます。JAK2阻害薬は分子標的薬のひとつで、脾臓腫大や全身症状の改善がみられ、全身のかゆみに対しても効果を発揮します。最近では骨髄の線維化の改善や生存期間の延長が報告されています。日本でも2014年から原発性骨髄線維症や、真性赤血球増加症や本態性血小板血症から移行した続発性骨髄線維症の患者さんを対象に使用できるようになりました。対症療法とは症状を緩和する方法で、脾腫に対する抗腫瘍薬や脾臓摘出、放射線照射、貧血に対する輸血療法などがあります。真性赤血球増加症や本態性血小板血症に比べると予後は悪く、急性白血病に移行する割合が本態性血小板血症や真性赤血球増加症に比べて高いと言われています。



図(ノバルティスファーマ株式会社より提供)

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