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骨髄線維症(MF) Q&A

愛媛大学医学部 血液内科 竹中 克斗

Q1.骨髄線維症(MF)はどのような病気ですか?

 骨髄線維症は、骨の中の骨髄組織に線維化を生じる病気で、造血幹細胞(すべての血液細胞を造る大元の細胞)に遺伝子異常が生じて発症する原発性骨髄線維症と、他の病気に伴って生じる二次性骨髄線維症に分けられます。原発性骨髄線維症では、造血幹細胞に、JAK2遺伝子、MPL遺伝子、CALR遺伝子などの遺伝子変異が生じ、骨髄の中で、巨核球(血小板を造る細胞)や顆粒球系の細胞が増殖し、これらの細胞から放出されたサイトカインによって、骨髄の線維芽細胞が増殖し、細網線維や膠原線維が産生されて、骨髄の線維化が進行します。骨髄の線維化が進むと、骨髄での血液産生が低下し、骨髄以外での造血(髄外造血)がすすみ、脾臓で血液を産生するようになるため、脾臓が腫れて大きくなってきます。徐々に、貧血や血小板減少が進み、白血球は増加していきます。また、産生されたサイトカインによる倦怠感、微熱、寝汗、体重減少、皮膚のかゆみなどの全身症状が現れてきます。最終的には、急性白血病への移行や感染症、出血などにより命に関わる病気です。 二次性骨髄線維症は、多くは、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、骨髄異形成症候群などの血液疾患に続発してみられる病気です。

Q2. 骨髄線維症(MF)はがんですか?

 造血幹細胞の遺伝子異常を生じて発症する病気ですので、悪性腫瘍に分類される病気です。

Q3. 骨髄線維症(MF)はどのように診断されますか?

 骨髄線維症は、たまたま他の病気で病院を受診した際に、貧血や血液検査値の異常をきっかけに診断されることが多い病気です。骨髄線維症では、骨髄が線維化しているため、通常の骨髄検査(骨髄穿刺)では、骨髄液が吸引できないため、骨髄線維化を確認するためには、骨髄生検で、骨髄組織の一部を採取する必要があります。現在の診断基準では、骨髄の線維化の程度も確認し、JAK2遺伝子、MPL遺伝子、CALR遺伝子のいずれかの遺伝子変異を証明して、骨髄線維症の診断に至ります。診断に際しては、骨髄の線維化を来すような他の血液腫瘍の存 在がないことを確認することも重要です。

Q4. 骨髄生検をした方がよいのはなぜですか?

 骨髄線維症の診断には骨髄の線維化の存在とその程度を確認する必要があります。通常行われる骨髄穿刺は、骨髄中の血液を吸引する検査になりますが、骨髄線維症では、骨髄の線維化のために、骨髄液が吸引できないため、骨髄の評価ができないのです。骨髄生検では、生検針という器具を用いて骨髄の組織の一部を切り取って採取してくるため、骨髄組織の構造や線維化の程度を知ることができるのです。このため、診断には、骨髄生検検査はどうしても必要な検査なのです。

Q5. 疾患のステージはどのようになっていますか?

 骨髄線維症のステージというものはありませんが、全身症状(体重減少、寝汗、発熱)、年齢、ヘモグロビン濃度、白血球数、末梢血芽球の5 つの項目によって国際予後スコアリングシステム(IPSS)は構成されています。評価項目は同じですが、ヘモグロビン濃度を重視したスコアリングシステム(DIPSS)というものもあります。このスコアリンシステムを用いて、低リスク群、中間-1リスク群、中間-2 リスク群、高リスク群に分類して、診断時からどのくらい生きられるか(あくまでも平均ですが)を予測することができます。DIPSSや、さらに、血小板数、輸血の必要性や、骨髄染色体検査の結果を加えたDIPSS-plusは、現時点からどのくらい生きられるかを予測したもので、最近ではこのスコアリングシステムを用いることが多く、造血幹細胞移植を行うべきかの重要な指標になります。

Q6. 骨髄線維症(MF)ではどのような症状が出るのでしょうか?

 脾腫による腹部膨満感、発熱、盗汗(寝汗)、体重減少、掻痒感(かゆみ)、骨痛、易疲労感(疲れやすい)などがあります。

Q7. 骨髄線維症(MF)の予後について教えてください。

 骨髄線維症の予後(患者さんの今後の経過)は、急性白血病への移行、白血球減少による感染症、血小板減少による出血などによって大きく影響されます。予後を推測するシステムにはいくつかありますが、全身症状、年齢、ヘモグロビン濃度、白血球数、末梢血芽球の5つの項目に加えて、血小板数、赤血球輸血の必要性、骨髄染色体の結果を併せて評価する国際予後スコアリングシステムDIPSS-plus というものがあります。点数によって低リスク群、中間リスク-1群、中間リスク-2群、高リスク群の4群に分類されます。国内のデータでは、低リスク群は18.6年、中間リスク-1群では10.7年、中間リスク−2群では3.7年、高リスク群では2.2年の生存期間(中央値)と予想されます。したがって中間リスク−2群や高リスク群で年齢が65歳以下の患者さんは造血幹細胞移植を積極的に考える必要があります。 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 特発性造血障害に関する調査研究班のホームページ
http://zoketsushogaihan.com/file/guideline_H28/08.pdf
にアクセスすると詳細が書いてあります。

Q8. 骨髄線維症(MF)の治療法について教えてください。

 治療法には根治療法と対症療法があります。根治療法とは病気を完全に治すことを目的に行う治療のことで、造血幹細胞移植がそれに相当します。造血幹細胞移植は、65歳~70歳くらいまでの方で、移植に耐えられる全身状態のよい方、移植のための造血幹細胞ドナー(提供者)がおられる方が対象になります。対症療法では、貧血に対する輸血、蛋白同化ホルモンやエリスロポエチン、JAK2阻害薬が用いられます。JAK2阻害薬は、脾臓の縮小や、全身症状の改善に有効で、生存期間の延長も報告されています。その他には、脾腫に対する抗腫瘍薬の内服薬や脾臓摘出、放射線照射などがあります。

Q9.日本で保険承認されているJAK2阻害薬について教えてください。

 ルキソリニチニブ(商品名ジャカビ)が日本で保険承認されています。適応疾患は、骨髄線維症と既存治療が効果不十分または不適当な真性赤血球増加症です。骨髄線維症は、原発性骨髄線維症、真性赤血球増加症や本態性血小板血症から移行した2 次性骨髄線維症を含みます。これまでの臨床試験では、IPSS で中間-2 リスク以上、脾腫5cm 以上の患者さんを対象に、ルキソリチニブが投与され、脾腫の改善、発熱、全身倦怠感、体重減少、活動性の低下などの全身症状の改善がみられ、最近の報告では、生存率改善も報告されています。主な副作用 は、貧血と血小板減少で、免疫機能低下のため、投与中は、結核、B型肝炎の再活性化、帯状疱疹などを含め日和見感染症に注意が必要です。

Q.10 ジャカビを服用し始めるタイミングはどういう場合でしょうか?

 一般的には、予後予測分類で中間-2 リスク以上の患者さんと、脾腫や全身症状を有する低リスク群・中間-1 リスクの患者さんが対象になります。

Q11. JAK2変異が陰性の場合にJAK2阻害薬はどれ位有効でしょうか?

 JAK2 変異以外の変異でも最終的にはJAK2 の経路が活性化されるので、JAK2 変異陰性の方もJAK 阻害薬はJAK2変異陽性例と同程度に有効です。

Q12. MFの患者で、脾腫がない場合はジャカビを服用する必要はないでしょうか。

 ジャカビは脾腫だけでなく、全身症状の改善にも有効です。 脾腫がなくても、発熱、寝汗、体重減少、掻痒感(かゆみ)、全身倦怠感(だるい)などがあり、生活の質(QOL)の低下を認める場合にはジャカビは効果的です。ただし、脾腫のない患者さんにジャカビを投与して、生存期間の延長が得られるかどうかは証明されていません。

Q13. JAK2遺伝子変異陽性、アレルバーデン値100%でジャカビを服用しても脾臓が縮小しない場合にはどのような原因が考えられますか?

 骨髄線維症の場合にはジャカビによって経過中35% の脾臓容積縮小率を示すのは約50% の患者さんです。骨髄線維症と診断されてからジャカビ投与開始までの期間が2 年以内の方が、ジャカビの効果が得られやすいということが言われています。また、脾臓容積の大きい方(左肋骨弓下10cm 以上)の方はジャカビが効きにくいと言われています。

Q14. ハイドレア、ジャカビで骨髄の線維化を抑制できますか?

 残念ながら、ハイドレアやジャカビで線維化を防ぐことはできません。可能性があるとすればインターフェロンです。インターフェロンによって早期の線維化が改善したという報告はあります。

Q15.治療薬による白血病への移行のリスクについて教えてください。

 抗腫瘍薬の種類によって白血病を誘発する頻度は異なります。骨髄線維症のデータではありませんが、真性赤血球増加症ではヒドロキシカルバミド(ヒドロキシウレア、商品名:ハイドレア)では急性白血病への移行率は4%ですが、ブスルファン(商品名:マブリン)などのハイドレア以外の抗腫瘍薬の急性白血病への移行率は12%、抗腫瘍薬を複数使用するとその頻度は17%に上昇すると報告されています。患者さんの多くに使用されているハイドレアは白血病を誘発する危険性は低いとされています。欧米のデータなのであくまでも参考ですが、急性白血病に移行しやすいのは「末梢血の芽球の割合が3%以上」、または「血小板数が10 万/ μ L 未満」と報告されています。

Q16. 芽球は薬でコントロール可能ですか?

 芽球の割合が少ない場合は、何もしなくても増減を繰り返すこともありますが、いったん、芽球が増加し始めると、抗がん剤以外にはコントロールはできません。

Q17. 医学的に初期のMFでペグインターフェロンは使用できますか?

 現在保険適用外なので、使用することはできません。初期(早期)の骨髄線維症に使用して貧血や線維化の改善や脾臓容積の縮小を認めたとの報告はあります。

Q18.造血幹細胞移植の役割について教えてください。

 骨髄線維症を根本的に治す(根治)ためには現時点では造血幹細胞移植が唯一の治療法です。前述のいずれかの予後予測分類において中間-2 〜高リスク群に該当、あるいは、中間-1リスク群でも、予後不良染色体など白血病への移行リスクの高い患者さんは、積極的に造血幹細胞移植を考えた方が良いでしょう。

Q19. 造血幹細胞移植は何歳くらいまで可能ですか?

 原則は65 歳までです。施設によりますが、全身状態が良ければさらに上の年齢層(70 歳くらい)まで行う可能性があります。病気の状態や、合併症の状態を含めて判断する必要があります。

Q20. MFで骨髄移植後の再発率を教えてください。

 骨髄線維症に対する骨髄移植では、移植した造血幹細胞は患者さんの骨髄に生着できない生着不全が10%程度みられます。骨髄線維症に対する移植治療後の再発の確率は正確にはわかりませんが、一般的には、治療関連死亡が30 ~ 50%と高く、全生存率は30~60%です。

Q21. 輸血は血液検査値がどのくらいになると考慮しますか?

 慢性貧血に対する輸血の目安は一般にヘモグロビン濃度が7g/dL が輸血を行う目安とされていますが、ヘモグロビン濃度がどのくらいに下がったら貧血症状(階段の昇り降りで息切れがする、頭痛、動悸、耳鳴りなど)が出るかについては個人差がありますし、仕事の内容(事務仕事などの軽労働なのか運動量の激しい仕事なのか)によっても大きく異なりますので、一律に決めることは難しく、一般には症状に合わせて輸血を行うことが多いかと思います。

Q22. セカンドオピニオンはどの時点で受診した方がいいですか?

 いつでも可能ですが、治療方針を決定する場合、特に造血幹細胞移植を受けるかどうかを決める際に、ご希望があれば、セカンドオピニオン外来を受診しても良いでしょう。

Q23. できるだけ運動はした方がいいですか?

 年齢に応じた適度な運動はこの病気に限らず必要なことですが、貧血による心臓への負担、血小板減少による出血の危険性、さらには腫大した脾臓を強打することによる脾臓破裂の危険性などを考慮すると、患者さん全員にできるだけ運動はした方が良いとは言えません。骨髄線維症による全身症状で倦怠感が強い場合には、安静がよい場合もあります。どのような運動がよいか、どの程度の運動量が適当か、主治医とご相談ください。

Q24. 発熱した時はどうすればよいですか?

 骨髄線維症の病気自体でも37℃台の発熱や発汗はみられることがよくあります。しかし、特に普段から好中球(白血球の一種)が極端に少ない(500 個/μL 未満)患者さんで、悪寒(寒気)や戦慄(ふるえ)、38℃以上の発熱が生じている場合には感染症の可能性があり、治療が必要ですので必ず主治医に連絡を取り、適切な治療(抗菌療法)を受けてください。自己判断は危険です。前もって、主治医の先生と発熱時の対応について相談しておかれることをおすすめします。

Q25. 体重減少は診断時から何パーセント減で報告した方が良いですか?

 原則半年で10%ですが、急激な体重減少や、徐々に体重減少が進む場合は、は主治医に報告してください。

Q26. 白血球が異常に下がったとき、日常生活で気をつける事、食生活で気をつける事はありますか?

 感染予防することが重要です。日常生活では入浴・シャワーで身体を清潔に保つようにします。皮膚は感染防御の重要なバリアなので、皮膚に傷をつけないよう、注意してください。怪我をしたら、消毒し、細菌が体内に侵入しないよう適切な処置を受けてください。人ごみは避け、外出時にはマスクを着用しましょう。好中球が500/ μ L 未満の場合には刺身や生肉、生卵などはやめましょう。食材は食前によく加熱し、生の果物や野菜は十分に洗浄してからなるべくすぐ食べるようにしてください。

Q27. 免疫力が下がったら、身体にどのような影響を与えますか?また、防御法はありますか?

 免疫力が低下すると、細菌や真菌(カビの一種)、ウイルスに感染しやすくなります。感染症にかかると発熱や感冒(かぜ)症状、下痢などの症状がみられることがあります。感染症の予防で、ご自身で気をつけることは、手洗い(排泄時や食事前、帰宅後に流水と石けんで丁寧に洗浄)、うがい、人ごみを避けること、外出時のマスク着用などです。

Q28. 血栓症のリスクを減らすには、どうすれば良いですか?

 この病気も本態性血小板血症と同様の頻度(10%程度)で血栓症を起こします。血栓症のリスク因子は血栓症の既往(過去に同じにように血栓症をおこしたことがある)ですが、静脈血栓症に限って言えば、外科手術やホルモン療法なども関係すると言われています。血栓症を予防するには心血管危険因子(高血圧症、脂質異常症、糖尿病、肥満、喫煙など)を減らす努力も必要です。

Q29. アスピリンを服用した方が良いですか?

 血小板が多い場合にはアスピリンの投与も考慮しますが、真性赤血球増加症や本態性血小板血症と異なり、血小板数が正常であればアスピリンを服用する必要はありません。

 

 

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