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本態性血小板血症(ET) Q&A

鳥取県立中央病院 血液内科 橋本 由徳

Q1.本態性血小板血症(ET)はどのような病気ですか?

 造血幹細胞に異常が生じて、おもに血小板が異常に増加する血液の病気で、骨髄増殖性腫瘍のひとつに含まれます。必要な検査を行ってほかの骨髄増殖性腫瘍を除外する必要があります。病気が進行すると、血管内で血のかたまり(血栓)ができやすくなり、同時に血液を止める働き(止血機構)の異常も加わり出血をきたしやすくなります。脳梗塞や心筋梗塞、脳出血など重篤な合併症を引き起こすこともあります。

Q2. 本態性血小板血症(ET)はがんですか?

 がん(悪性腫瘍)ではありませんが、自律的に血小板が増加する病気で、骨髄増殖性腫瘍のひとつに含まれます。まれに、血液の“がん(悪性腫瘍)”である急性白血病へ移行することがありま。

Q3. 本態性血小板血症(ET)の原因は何ですか?

 最近、JAK2 V617F遺伝子変異やMPL 遺伝子変異、CALR遺伝子変異といった造血幹細胞の増殖に重要な役割を果たす遺伝子に異常があることが発見されました。しかしながら、なぜその異常が起こるのかについては十分に分かっていません。

Q4. 本態性血小板血症(ET)はどのように診断されますか?

 診断には世界中で広く用いられている世界保健機構(WHO)の診断基準を用いて確定診断を行います。45 万/μL 以上の血小板増加が持続すること、骨髄生検を行って血小板のもととなる大型の巨核球が増えていること、前述の遺伝子異常(Q3を御覧ください)を認めることが診断に必要です。さらに、血液細胞が二次的に増加する病態と区別する「除外診断」が重要となります。

Q5. どのようにして一次性と二次性の血小板増多を鑑別しますか?

 一次性とは、造血幹細胞の増殖に重要な役割を果たす遺伝子に異常が生じ、自律的に血小板が増加している場合を指します。一方、二次性とは、他に原因があって反応性に血小板が増加している場合を指します。その区別には遺伝子異常に着目します。二次性は遺伝子異常がありませんので、前述の3 つの遺伝子異常(Q3 を御覧ください)がある場合(ET と診断される方の80-90%に遺伝子異常を認めます)は区別が容易です。残りの10-20% は、骨髄生検所見などを参考に慎重に二次性を除外することとなります。

Q6. 本態性血小板血症(ET)の他の呼び方はありますか?

 特発性血小板血症、特発性血小板増加症などと呼ばれることがありますが、本態性血小板血症が最も一般的で統一すべきと考えます。

Q7. 本態性血小板血症(ET)は治癒しますか?

 残念ながら現時点では治癒することはなく、治療の目標は血栓症や出血などの合併症、骨髄線維症や急性白血病への移行を予防することにあります。しかしながら、最近、前述の遺伝子異常を改善させる可能性のある薬が報告されています。現在国内では使用ができませんが、今後の情報の蓄積に期待が寄せられています。

Q8. 予想される寿命はどのくらいですか?

 寿命は健常者とほぼ同じと考えられていますが、血栓症や出血などの合併症が生じると生活の質が著しく低下する場合があります。その合併症が起こり得る危険性をしっかり評価することが重要です。

Q9. 本態性血小板血症(ET)はどのくらい発症していますか?まれな疾患ですか?

 わが国における正確なデータはありませんが、海外のデータによると、1 年間の発症者数は人口10 万人あたり2 人程度と推測され、比較的まれな病気といえます。男女比は1:1〜2 とやや女性に多く、診断時の平均年齢は60 歳代ですが、妊娠可能な年代の女性に発症のピークのひとつがあり、注意が必要です。

Q10. 本態性血小板血症(ET)は血小板数が増加するだけですか?

 おもに血小板が増加しますが、JAK2 V617F 遺伝子変異があると白血球なども増加する場合があります。ヘモグロビンが増加し、WHO の診断基準において真性赤血球増加症(PV)の基準を満たすと、血小板数に関わらずPV と診断されます。

Q11. 血小板数が増加したら危険ですか?

 一般的に血小板数が150 万/ μ L 以上になると、止血機構に異常をきたし出血しやすい状態となります。海外の報告では、血小板数が100 万/ μ L 以下でも止血機構に異常をきたす場合があり、止血および凝固調節に関わる検査項目の測定が望ましいとされています。

Q12. 本態性血小板血症の治療法について教えてください。

 血栓症低リスク群(年齢が60 歳未満かつ血栓症の既往なし)では、定期的な経過観察を行います。低リスク群でも、JAK2 V617F 遺伝子変異がある、または心血管リスク因子(喫煙、高血圧、脂質異常、糖尿病)がある場合は、低用量アスピリンの内服を考慮します。血栓症高リスク群(年齢が60 歳以上あるいは血栓症の既往あり)では、血栓症を予防するため低用量アスピリンの投与と細胞減少療法を行います。国内で使用可能な細胞減少療法には、ヒドロキシカルバミド(商品名:ハイドレア)やアナグレリド(商品名:アグリリン)等があります。欧州では、アナグレリドは第二選択薬の位置づけですが若年の方を中心に広く使用されており、わが国では初回治療から使用することができます。

アナグレリドについて教えてください。

 商品名はアグリリンです(シャイアー・ジャパン株式会社/ 武田薬品工業株式会社)。詳細は以下のURL より確認していただくことができます。
(http://www.shire.co.jp/products/product-information/agrylin)
 アグリリンは、血小板を造る巨核球の成熟や血小板を放出する過程を抑制して血小板を減らす薬です。この薬は抗がん薬ではないため、薬による遺伝子への影響(白血病などを誘発する可能性)が認められていません。少しずつ投与量を増やしていき、目標とする血小板数へ調整します。国内での臨床試験において日本人で多く認められた副作用は、貧血、頭痛、動悸、下痢、末梢性浮腫などで、その程度は軽度もしくは中等度であったと報告されています。

Q14. 骨髄生検は必要ですか?それはどのようなものですか?

 骨髄検査には「骨髄穿刺」と「骨髄生検」があります。腰からおしりにかけてある大きな骨(腸骨)に針を刺して、注射器で骨髄液を吸引する方法を「骨髄穿刺」といいます。他方、もう少し太い針を刺して、骨組織を含む造血組織をちぎり取ってくる方法を「骨髄生検」といいます。骨髄の線維化が強い場合は、骨髄液の吸引が困難なことがありドライタップと呼ばれています。ET の診断には、骨髄中の細胞密度や線維化の程度を調べる必要があり、骨髄生検が必須と考えられます。特に「骨髄生検」は痛みを伴う検査ですが、適切な診断を行うため検査にご協力をお願い致します。

Q15. 本態性血小板血症(ET)はどのような症状が出るのでしょうか?

 診断時期によっても異なり、例えば健康診断などで偶然見つかった場合は症状がないこともありますが、徐々にさまざまな症状がみられるようになります。細い動脈に血栓が形成されると、頭痛、めまい、耳鳴り、手足の先端部分の発赤やヒリヒリしたような痛みなどがみられます(肢端紅痛症)。全身の症状としては、体のだるさ、集中力・活動性の低下、微熱、寝汗などの症状がみられることがあります。また血小板を処理する脾臓という臓器が腫れて、おなかが張ったり、食欲が低下したり、不快感などを生じる場合があります。血栓症を併発しますと、それに関連した症状がみられます(脳梗塞であればしゃべりにくさや半身麻痺など)。

Q16. 閉経したら、ホルモン補充療法を受けられますか?

 ホルモン補充療法は肝臓の組織を刺激して血液を固まりやすくさせるため、静脈血栓塞栓症の危険性が高まることが報告されています。 閉経後の症状にもよりますが、ET患者さんは一般的に受けないほうが安全といえます。専門医にご相談ください。

Q17. 治療を開始するに当たり、その基準は何ですか?

 年齢が60 歳未満かつ血栓症の既往がない方で、JAK2 V617F 遺伝子変異がある、または心血管リスク因子(喫煙、高血圧、脂質異常、糖尿病)がある場合は、低用量アスピリンの内服を考慮します。年齢が60 歳以上あるいは血栓症の既往がある方は血栓症の高リスクとなり、血栓症を予防するため低用量アスピリンの投与と細胞減少療法を行います(Q12を御覧ください)。また、血小板が著しく増加し止血機構に異常をきたしている場合や、細胞増殖が著しい場合、ET に関連した全身症状がコントロール不良の場合は細胞減少療法を実施あるいは考慮します。

Q18. 本態性血小板血症(ET)の患者は何が原因で亡くなりますか?

 おもに脳梗塞や心筋梗塞などの血栓性合併症や脳出血などの出血性合併症ですが、一部の患者さんでは骨髄線維症や急性白血病へ移行し、それらが死亡原因となることがあります。

Q19. 病気の変化または進行の兆候を示す症状・出来事はありますか?

 貧血の進行による動悸や息切れ、脾臓の腫大によるおなかの不快感などが現れた場合は注意が必要です。そのほか、血液検査によってヘモグロビンの低下、白血球の増加、「LDH」という項目の上昇、通常は骨髄中にしか存在しない幼弱な細胞を認めた場合、画像検査によって実際に脾臓が大きくなっている場合などは、骨髄線維症や白血病への移行が疑われます。その場合は、適宜骨髄生検を行って骨髄の状態を評価する必要があります。

Q20. 本態性血小板血症(ET)の子供は大人よりも違った反応をしますか?

 起こり得る症状は基本的に大人と同じと考えます(Q15 を御覧ください)。しかし子供のET は非常にまれで、まとまった報告がありません。遺伝することを心配されるかもしれませんが、一般的に遺伝性があるとは考えられていません。

Q21. 本態性血小板血症(ET)の子供に対し骨髄移植は治療選択肢に入りますか?

 選択肢には入らないと考えます。ただし子供のET は世界中で100 人程度しか報告がなく非常にまれで、まとまった報告がありません。大人と比較し血栓性・出血性合併症は少ないとされていますが、そのリスク分類も明確ではありません。一般的なリスク分類で考えると高リスク群となる例は限られ、細胞減少療法でコントロールできるとする報告があります。

Q22. あざや血栓を引き起こす原因は何ですかか?

 血小板が異常に増加すると、止血機構に異常をきたし出血しやすい状態となりあざができやすくなります。前述のように血小板数が100 万/μL 以下でも止血機構に異常をきたす場合があり、止血および凝固調節に関わる検査項目の測定が望ましいとされています(Q11 を御覧ください)。血栓のできる機序に関してはいろいろな報告がありますが、活発化した血液細胞から放出されるサイトカインという生体防御機構に重要な役割を果たす物質によって血小板が集まって固まる作用が増強したり、増殖した血小板と白血球が互いに作用し合ってかたまりをつくったりすることが報告されています。

Q23. 足が腫れているのですが、どうしたらよいでしょうか?

 原因としては深部静脈血栓症や肢端紅痛症、アナグレリドなどで治療中であれば末梢性浮腫などが考えられます。片足あるいは両足が腫れているのか、痛みを伴っているのかも重要な情報です。深部静脈血栓症では、足の腫れのほか、痛みや熱感、発赤などを伴う場合があります。その血栓が肺に行く血管に詰まると、肺塞栓症(エコノミークラス症候群)を引き起こし、命にかかわる状態となることがあり注意が必要です。抗凝固療法や血栓溶解療法、場合によってはカテーテル治療などを行います。肢端紅痛症は血栓によって細い動脈が詰まることによって発症します。ET 患者さんに生じる肢端紅痛症は左右対称ではないことが多く、手足の先端部分の発赤やヒリヒリ・チクチクしたような痛み、熱感、紅斑、腫脹などが起こります。アスピリンが良く効く場合が多いです。アナグレリドなどで治療中の場合は、まれに末梢性浮腫や心不全を起こすことがあり、かかりつけ医にご相談ください。

Q24. 本態性血小板血症(ET)は骨髄線維症や急性白血病に移行しますか?

 日本人での報告では、骨髄線維症へ2.8%、急性白血病へ2.3%、別の報告では両方合わせて8% 程度移行すると報告されています。海外の報告では骨髄線維症へ約3%、急性白血病へ1〜5% 程度と報告されています。骨髄線維症へ移行する危険因子として、診断からの経過期間が長い、血小板数が多いことなどが報告されていますが、今後多くの患者さんの経過をみていって判断する必要があります。

Q25. 本態性血小板血症(ET)患者にとって日常生活で気を付けることはありますか?

 必要な治療を適切に行うことのほか、心血管リスク因子(喫煙、高血圧、脂質異常、糖尿病)を除去することが重要です。これらの病気を合併しないよう、食生活に気を付け(Q26 を御覧ください)、適度な運動に心がけてください(Q27 を御覧ください)。特に喫煙により血栓症が発症するリスクがさらに高まるとされていますので、喫煙されている方は禁煙が必要です。ご自身で止めることができなければ、主治医に相談し、禁煙外来を紹介していただくこともひとつの方法です。

Q26. 食生活の中でできるだけ摂取した方がよい食品群はありますか?

 高血圧症、脂質異常症、糖尿病にならないことが肝要です。特定の食品を摂取する必要はなく、間食を避け、バランスのよい食生活を心がけてください。治療のためワルファリンなどの薬を内服されていなければ、納豆などを食べてはいけないということはありません。

Q27. 疲労感や体力低下を感じた時、体に負担をかけずに毎日続けられることはありますか?

 前述の食生活の改善のほか、適度(30 分程度)なウォーキングや軽いジョギングなどがお勧めです。たくさんの汗をかくと脱水状態になりますので水分補給をこまめに行ってください。膝や体調が悪い場合は主治医にご相談ください。

Q28.本態性血小板血症(ET)で妊娠を希望する場合に気を付けることは何ですか?

 妊娠・出産を考えられる場合、まずはかかりつけの血液内科医に相談をしてください。妊娠中に血小板が増加した場合の治療方針について検討が必要で、薬の投与が可能な施設かどうかご確認ください。細胞減少療法として、ヒドロキカルバミドを内服中の場合、男女ともに避妊が勧められます。アナグレリドについてはデータが十分ではありませんが、内服中の場合、少なくとも女性は避妊が望ましいと考えます。また仮に妊娠された場合、ヒドロキカルバミドは中止が必要です。アナグレリドは、妊婦または妊娠している可能性のある女性に対しては、治療による有益性が危険性を上回る場合のみ投与を考慮しますが、原則中止したほうがよいと思います。ヒドロキシカルバミドは、男女を問わず妊娠を希望する3-6 か月前に中止が望ましく、その間はインターフェロンαの投与が考慮されます(保険適応外)。アナグレリドに関しても、妊娠を希望する場合は原則中止し、その間はインターフェロンαの投与が考慮されます(保険適応外)。

Q29. 本態性血小板血症(ET)で出産の際に気を付けることは何ですか?

 妊娠初期の自然流産、また妊娠後期の子宮内胎児死亡や死産が一般の妊婦と比較し高いことが報告されています。妊娠喪失リスクに関して、一般的にいわれている血栓症の高リスク因子のほか、妊娠関連合併症が報告されています。専門家の意見をまとめた管理指針はありますが、国内では保険適応外の薬もあり、適切な治療方針は確立されていません。血液専門医、ハイリスク妊娠に対応できる産婦人科のある病院で管理していただいたほうがよいと思います。

 

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